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(二)





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喜 寿 課題 全員二句
おとずれ 井上 つよし
五尺玉 今村 耕一
戦後六十年 尾崎 卓司
よさこい 川井 十郎
命 綱 熊本 健也
でんでん虫 榊  龍雄
渋団扇 重本 暢正
彼岸花 萩田  威
蓑 虫 松岡 昭典
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備考:各人自選句19句を掲載 会員の写真

中表紙挿絵:観武台碑




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○喜 寿   (各人 二句)

思いでに夜長も楽し走馬灯      (井上つよし)
健康はこの一杯の旨い事       

喜寿傘寿バーがだんだん高くなる   (今村 耕一)
六十年経って紅顔みんな喜寿     

靖国の御霊の加護に喜寿迎え     (尾崎 卓司)
喜寿クリア次は米寿にチャレンジを  

喜寿万歳昭和一ケタ戦火越え     (川井 十郎)
人並みの寿命喜ぶ子や孫と      

喜寿迎う生きてることを喜んで    (熊本 健也)
喜寿祝う泣くか笑うか次傘寿     

寿の口ぞまだそれぞれの旅つづく   (榊  龍雄)
喜寿なんぞお呼びじゃないとエンマ庁 

もう喜寿か残り少ない砂時計     (重本 暢正)
過疎の村喜寿になっても若い衆    

同期会揃って喜寿を祝う宴      (萩田  威)
母の祝い思い出しつつ喜寿迎え    

古希よりも少しめでたく喜寿迎え   (松岡 昭典)
喜寿などは米寿白寿の通り道     
       




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○おとずれ        井上 つよし  

風鈴に友のおとずれ読み返し    (おとずれ) 
子が遊ぶ地雷も弾丸も無い庭で   (平和な日本)
頼もしく若さが光る挙手の礼    (イラク派遣)
青空は古希の二人のサポーター   (若いわかい)
遅くとも活蝓後へ下がらない    (前へ前へ)

泥んこの馬鈴薯顔が頼もしい    (腕白坊主)
イヴで飲み正月でも飲む不信心   (飲めるゾ)
カラオケの歌に艶出る酔い心地   (もうやめろ)
もう一本欲しい素振りに知らん顔  (イケマセン)
立たされて泣いた母校へ赴任する  (閥)

社内メーク矯めつ眇めつ化けている (傍若無人)
党益が大義の顔をして喋り      (議論)
落葉しぐれ焼芋買ってみたくなり  (ヤキイモー)
シャンソンで巷の雨に濡れて行き  (仏語班)
長風呂の曇りガラスで句をひねり  (苦吟)

義理チョコを心待ちする十四日   (もてぬ男)
手術せぬ医者を探して梯子する   (先送り)
百年目日露戦う国技館       (今は昔)
早死にをした奴みんないい男    (貴様と俺) 





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○五尺玉         今村 耕一
 
若者はひらりとまたぐ水溜り    (身軽)
街並みにエキゾチックがにじみ出る (横浜山手)
不器用と粘りが時に同居する    (粘り強い)
ビールからぬる燗にして秋は来る  (時機到来)
杖にすがりなお老梅は花咲かす   (支柱付)
 
火起こしで昔が活きるバーベキュー (飯盒炊爨)
雷門茶髪もいなせ俥曳き      (観光人力車)
吉報の耳打ちをするいい役目    (囁く)
凡才もたまには秀句を作り出す   (偶然)
起き抜けにまず朝顔の花数え    (雨戸繰り)

五尺玉豪華と浪費詰め合わせ    (勿体無い)
繋がれても犬の散歩は弾んでる   (嬉しい)
失せ物が出てくる暮れの大掃除   (大掃除奨励)
八咫烏末は毎朝ゴミ漁り      (神代の末裔)
金星を取って平幕面くらい     (出来過ぎ)
 
近頃は夢の中まで探し物      (困ったね)
孫を連れ斜め横断おばあちゃん   (危ない)
軍歌って何と孫聞き一苦労     (一から説明)
動物に安息呉れる雨降り日     (上野動物園)











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○戦後六十年       尾崎 卓司   

年頭の決意も新た初日記      (年始) 
初詣願う平和に好景気       (スタート)
お正月猫も喰っちゃ寝肥満体    (何処も同じ)
戦場を茶の間に運ぶテレビジョン  (現実)
診察の度に体重咎められ      (太る)

酒旨いうちは健康独り決め     (健康基準)
猿山の年功序列雨宿り       (猿山合戦)
観客に牝ライオンの一睨み     (怖い)
幼年校夢見た少年ノーベル賞    (小柴教授)
学区廃止復権なるか都立校     (学力向上)

パソコンの専門用語すぐ忘れ    (健忘症)
探しもの無駄な時間が多くなり   (無駄)
妻旅行亭主は猫と留守居番     (呑気)
菜の花の波の中行くローカル線   (長閑)
熱燗に泥鰌鍋にて暑気払い     (暑い)

外国勢国技の本拠脅かし      (相撲)
首山堡に軍神散って百年祭     (橘中佐)
消燈後私語叱られて今日終わる   (長い一日)
名幼の門から続く六十年      (原点) 







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○よさこい       川井 十郎   

鷽替えて今年の運を貰いたい    (天神様) 
わが町の史跡発見見歩く会     (地元志向)
よさこいの鳴子踊りに龍馬見る   (古里)
落書きを壁画に変えて美しく    (環境)
平凡に生きた幸せ分かる年     (七十から)

寝たきりにだけはなるまい寝正月  (初夢)
人生のカーテンコール趣味の芸   (幕間)
年忘れ来年こそと手締め打つ    (希望)
新聞は死亡記事から読み始め    (関心事)
七十の手習いとなる家事多忙    (老老介護)

父の日の爺はちょっぴり遠慮をし  (世代交代)
校長の「堅志力行」花も実も     (熟年)
幼年校でかい帽子が歩いてた    (親友生)
両将軍武士道見せた水師営     (日露戦百年)
「同期の桜」鎮魂込めて花の下    (歌う会)

イラク復興戦わずして勝つ自衛隊  (孫子の兵法)
アテネ五輪天賦の技の金メダル   (お家芸)
「気合だア」父娘の愛情迸る     (コーチ)
叱るより賞めて正すがうまい人   (育てる) 





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○命 綱         熊本 健也   

ことごとにうるさい妻をなお頼り  (命綱) 
何食べたい聞くが変わらぬ夕ごはん (参考)
老夫婦一度作って三度食べ     (手抜き)
妻病んで急に育った夫婦愛     (不安)
お互いが我慢強くて四十年     (あきらめ)

二年余の幼年校の太い縁      (同期の桜)
ちゃんづけで今も呼び合うハゲ白髪 (幼馴染)
同窓会今なら言える好きやった   (初恋)
ペイオフを散々聞いて何もせず   (心配無用)
高級車止めてバーゲン買っている  (外面内面)

懲りもせず又言っている今年こそ  (新年の誓い)
掛声をかけて起きだす冬の朝    (ハズミ)
決断が出来ずタバコへ手をのばし  (一服)
蚊一匹悪い耳でも眠られず     (不眠症)
大事だと別にしまって大さがし   (さがしもの)

眼鏡かけ直し二度みる体重計    (確認)
オペ決める医者に任せて祈るのみ  (運命)
三才の孫追いかけて笑う膝     (老化)
古希過ぎてまだ言っているこれからだ(夢) 




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○でんでん虫       榊  龍雄  

チャンネルを競った子等も親になり (テレビ) 
囁きがともに通じぬ年となり    (囁き)
口出さぬボスの眼モノを言っている (牽制)
姑嫁雑煮がつなぐ郷の味      (継ぐ)
長考の末の一手を差し違え     (決断)

空っ風が落葉集めて舞踏会     (走る)
新円にコッペスケソウ想い出し   (貨幣博物館)
猿山はいじめの限界知っている   (動物園)
フォト整理セピアのKDに手が止まり(KDの追憶)
気がつけば我が家のルール妻流儀  (山の神)

PCの用語辞典に辞書が要り    (横文字音痴)
棒倒し騎馬戦もない風物誌     (運動会今昔)
アチコチでポチが鳴きだす年度末  (予算消化)
離校日の顔に皺足し友集う     (同期生会)
バーゲンの一人一個に狩りだされ  (召集令)

無を説いてお布施は無とは云わぬ寺 (本音)
馴れた道坂があったと気付く歳   (使い過ぎ)
鹿島立ち父と子黙するだけで足り  (親子)
観梅会振舞酒に花忘れ       (花より団子)






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○渋団扇         重本 暢正  

節電を団扇でしのぐ老いの汗    (節約) 
鏡さえ見なきゃ気分は五十代    (天国)
ぼけた振りせずに今じゃ地で行ける (自然の法則)
煮詰まってますますがんこ老いの性 (頑迷固陋)
三猿の教え守ろう老いの口     (チャック)

から傘が思いだせた雨の音     (懐かしさ)
楽しさをみんな知ってる喜寿のしわ (功徳)
涼しさを顔で飲み干す大ジョッキ  (納涼)
リハビリの母は手摺の綱渡り    (リハビリ)
順調に老いた証の物忘れ      (物忘れ)

鬼は外心の闇に豆を撒く      (節分)
酔うほどに音痴になった花見の輪  (花より団子)
太ってもやせても病気疑われ    (太る)
善人も看視カメラは気に掛かる   (牽制)
子は並みで可愛い孫は並みの上   (平凡)

せきばらいまでも親似の孫の癖   (継ぐ)
生き甲斐を求め決意のUターン   (決断)
あかぬ蓋手元に孫の期待の目    (堅い)
駆けっこの園児ゴールはママの胸  (走る)






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○彼岸花         萩田  威  

花の下弁当開く老夫婦       (お花見) 
丹精の花を小鳥に啄ばまれ     (嘆き)
ランドセル買った帰りにすぐ背負い (待ち遠しい)
梅の咲く順も覚えたバスの道    (春浅く)
安全帽萌える新芽の中に溶け    (仲良し)

園芸家花の気持を汲めと言い    (育てる)
鯉の呑む若葉の風で深呼吸     (若葉)
一年生犬のいる道避けて行き    (通学路)
健診のあとは散歩が長くなり    (気分)
朝顔市洋種も三本締めで売り    (三本締め)

暑いけどもう秋ですと彼岸花    (彼岸花)
松茸は外国産と子は信じ      (思い込み)
ひんやりと晩秋つかみ蜜柑もぐ   (冬近く)
カーテンを遊び場にするかくれんぼ (遊び場)
冬台風窓に枯れ葉をつけて行き   (季節外れ)

布団干す日向の匂い眠気さし    (日向)
ホームページ繋いで友が近くなり  (新米)
議論した続き寿司屋でまた始め   (夢中)
同期の歌歌う貴様と俺の糸     (堅い)




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○蓑 虫         松岡 昭典  

増えるシミ長寿の相というけれど  (老いの勲章)
母用の手すりが役に立ってくる   (世代交替)
いたずらを笑って叱る年になり   (好好爺)
たまに来る孫には見せる太っ腹   (孫だけは別)
マスクして眼鏡もかけて花粉除け  (慎重に)

麗人に席ゆずられてどぎまぎし   (若いつもり)
一本の指が馴染んだキーボード   (万能人差指)
CMでトイレに走るサスペンス   (見逃すな)
五連休安近短で持て余し      (財布ピンチ)
雨庭にうつむくバラの露払う    (上を向いて)

髭剃りも三日一度の雨篭もり    (黴だらけ)
台風がくるよと蝶は触れまわり   (可愛予報士)
見過ぎだよ五輪イチロー甲子園   (熱戦夢中)
近頃は愛車も運動不足です     (主に似る)
秋庭を舞いつつ去っていく揚羽   (秋深し)

病歴が酒のさかなの同窓会     (おぬしもか)
議論好き敬遠されて手酌する    (損な性分)
蓑虫は雪も寒さも知らぬ顔     (達観願望)
初春や百歳までが一つ減り     (これからだ)








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  あ と が き
  「句即快」と名づけた川柳同好会、今年で十年目に入った。年と共に川柳が日常生活に融け込んできて老後の楽しみとなり、「快」であることは確かだ。病気も快方に向かうという言葉があるくらいだから元気の源といえよう。 

  句作の場合、着想(見付け)が第一である。ラクに句が出てくる時と、なかなかうまく出ない時があるものだ。そんな時に苦吟中というが、それも「苦即快」(終戦時の人見順士校長の揮毫・故人)の教えを思い突破できる。川柳は時事やらビジネスなどジャンルを広く見付けることも面白い。私たちの句作は老後生活の中でやはりシルバー川柳の趣きがある。だが、まだまだ元気の証拠に政治、経済、社会問題など時事にも関心が強く句会の話題にもなる。だから、テレビからネタをとるのを自嘲する向きもあるが一石二鳥といえよう。

 
  ともかく句即快乃会は、昨年一名病気のため退会したので現在九名で続けている。毎月一回の例会と年二回の吟行会は欠かさず、ますます力が入ってきた。句会は互選方式でやっており、あと忌憚のない鑑賞ができるのもよい。同人の句作も次第に円熟の域に達し年相応の深み、味わいを感ずるものがある。 

  このたび、自選川柳集(二)を上梓する運びとなった。第一集と同じ体裁であるが、とくに中扉の「観武台」の石碑は少し傷みもあるが、武士道精神を象徴する私たちの文化財である。そして巻頭句はいま私たちが迎えた「喜寿」をテーマに各人二句、自選の川柳は各人十九句を掲載した。ご高覧いただければ幸いである。    

        平成17年7月   幹事:川井 十郎      
会員(平成17年7月現在):(幹事 川井) 

井上、今村、尾崎、川井、●熊本、榊、●重本、萩田、●松岡    
(●は遠隔地会員を示す)      
   


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