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平成廿八年九月十四日六幼連絡会
                                                 卓 話 レ ジ ュ メ        廣幼47期  奈良 保男

  演題・『「旧仮名遣ひ」私 考』
           ―陸軍幼年学校合格通知電報にまつはる余話―

NHKの朝の連続テレビ小説は、昭和36年4月の第一話、「娘と私」から始まった。
以後、現在の「とと姉ちゃん」が94 作。その聞、世界的?な話題作となった「おしん」
(昭58年)を始め今日まで続いて来た。奈良も勤め時代には観てゐたこともある。個人的
には「鳩子の海」(昭49年)で挿入歌が「愛国の花」。今のNHKでは全く考へられぬ。

◆平成23年下半期の「カーネーション」。最初は観てゐたが、途中から観なくなった。そ
の理由は、例の如きNHKの、特に戦前の日本を描く姿勢。今のも酷いと聞いた。

◆「カーネーション」は大阪―岸和田が舞台。主人公の実家が「小原洋装店」。店名の横
書き看板が登場。当然右横書き。しかし、案の定「おはら洋装店」。小原を假名で書くと
はら」でなければならぬ。NHKに電話。「ふれあい(ひ)相談」。「をはら」は正
しいと知った上で「おはら」にしたのか。原作もさうなってゐるのかなどなど。全く回答
なし。観なくなったがヒロインの父親が亡くなった時に書き遣した書面を偶々観た。又も
や「おはら」とあった。奈良の指摘は無視され更に駄目押しの形。それっきり観ず。

◆日本人の「
名字(苗字)」。世界一多い日本の名字。約13万5千〜15万とも、27万余と
も。奈良は名字に人一倍興味。日本の名字ベスト10。「さすたたわいなこやか」 ※末記
翻目本の名字に、何と無く「ア行」が多いと感じてゐないか?。現在の仮名遣ひ(「現代
假名遣ひ」または「表音式仮名遣ひ」)では、「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」、そして
「お」と「を」は全て「ア行」。昔は「ワ行」。

◆余談であるが、日本語の単語では、「カ行」と「サ行」が多い。「濁音」があること
「拗音」《よ(え)うおん。《一般に、ゃ・ゅ・ょで表す。「きゃ」「しゅ」「ちょ」な
どが加はることで増える。特に「サ行」の「し」に多い(シャ・シュ・ショ の使ひ方多い》

◆「小原」は「
はら」であって「はら」ではない事からこの話となったので、「
と「
」について、名字を例に調べてみた。
●振り仮名「
」=大田、太田、織田、及川、奥田、沖野、落合、沖野、落合、
 乙羽、音田、鬼塚、表、親泊、
など
●振り仮名「
」=小沢、小田、小田村、小野、尾野、岡、丘、緒方、岡田、
 荻原、桶谷、長田、男谷、女谷、
など
●振り仮名「お」「を」
以外(わう)仰木(あふぎ)(あふぎ)

◆現代仮名遣ひの「お」で始まる日本の主要名字は、735個あると云はれるので、右の
例はほんの一部。自分の名字を「旧假名」で書くとどう書くのか。果たして小沢一郎氏は
知ってゐるか。仮に「をざわ」を知ってゐたとしても、「いちらう」は知らなかった。!?

◆「い」で始まる名字は「お」よりも多い。781個もある。しかし「お」と違い殆どが
「い」で、「
」は少ない。「井上」(日本第17位)「井野」「猪股」「猪野」

◆振り仮名「
」の例。江口、枝野、海老原、江藤など。

◆ 〃 「
」の例。越後、江藤、円城寺、遠藤など。

◆最初に「ア行」の名字が多いと書いたが、それは主として「お」が多いから来てゐるこ
とが分かった。名字の「い」の場合、「ゐ」は少ないし、「え」の場合は「ゑ」の比率が
多いことは分かったが、元々「え」の付く名字はさう多くない。
昭和18年3月初めのこと。奈良は寒空のもと中学の校庭に朝礼のため整列し、幼年学校
合格者の氏名発表を聴いた。仙台↓東京↓名古屋↓大阪、と来たが奈良の名前は無い。当
然のことと思ってゐた(既に二年生での受験勉強を始めてゐた)ので、次の瞬間、名前を
呼ばれた時の愕きは大きかった。この日まで学校にも知らせは無かった筈。その日、全国
一斉に教育総監部から合格者宛てに「電報」が発信されたものと思はれる。




電文の中に、ヒロシマヨウネンニ…とある。「旧仮名」ではヒロシマエウネンで無けれ
ばならない。ケウイクソウカンブは正しい。しかし、欄外のトウケウは、トウキャウでな
ければならぬ。多分、東京と教育のキョウは一緒だと思ひ込み、教育のケウと同じにした
のではないか。
これは一度どこかで読んだのだが、この頃には「仮名遣ひ」の緩和措置が認められ、そ
の通達か出てゐたとのことである。その対象や、具体的内容については目下調査中で、誰
方かご教示戴ければ有難い。いづれにしても、教育総監部の担当者でも堂々と!?間違ふの
だから、如何に「
歴史的仮名遣い」が難しいものであるかが分かるといふことだ。

そのほか、仮名遣ひについては色々と珍談・奇談・怪談!?を含めて、見逃してはならな
い問題点が沢山あり、機会を見て発表してもよいと、奈良なりに纏めたこともある。そも
そも、この文章もNHKの「カーネーション」を観てゐた時期に纏めたものであり、今か
ら5年前の資料がベースとなってゐる。
かうしてみると、敗戦による国語破壊が如何に凄まじかったか、それが、占領軍による
ものだけでなく、日本文化の破壊に、寧ろ喜々として手を貸した連中の責任は、筆舌に尽
くせぬほど重く、今思へば、まさに万死に値しよう。

最後にこのやうな貴重な時間を戴きながら、拙いお話でお耳を汚したことをお宥し願ひ、
この辺りで終はりたい。ご静聴を感謝します。
なお、今日のためのこのレジュメの文章は、せめても「歴史的仮名遣ひ」で統一したい
と思ひ、気を配ったっもりであるが、果たして?。          ― 了 ―
参考文献 別冊歴史読本『日本の苗字ベスト10000』新人物往来社 2001年1月

※印 解答
第1位 佐藤 160万   第2位 鈴木 169万   第3位 高橋 140万
第4位 田中 132万   第5位 渡辺 109万   第6位 伊藤 107万
第7位 山本 106万   第8位 中村 104万    第9位 小林 101万
第10位 加藤 85万      以下 吉田・山田・佐々木・山口・松本・斎藤・井上